この作品は、統合失調症を抱えながらも「統合失調症の僕ではない部分」を必死に描き出そうとした、不純物を取り除くための浄化の物語です。
蟷螂の雌が産卵後に雄を食べてしまうという残酷な習性から始まる「かまきり蟷螂の産卵」では、煙草を吸う日常やトンテキを刻む行為さえ、欲望と背徳、男女の刹那的な関係に重ねてしまいます。
「スイマーズハイ」では、部屋で一人、テレビの水泳レースを見ながら、自分の中の激情をコントロールしようとする。
ペースを乱さず泳ぐ高校生に重ね、自分との闘い、快楽は勝利か敗北か?と問い続けます。
誰もいない部屋で熱くなるだけの「一人レース」の虚しさが、胸に刺さります。
水泳の集中と激しさを思わせるシーンが印象的です。
全体を通して、孤独・欲望・自己嫌悪・浄化への渇望が渦巻いています。
幻聴や妄想の直接的な描写は少ないですが、統合失調症で歪んだ視点が、日常の何気ないものを異様に大きく、痛く映し出しています。
これは「症状じゃない部分の僕」を取り戻そうとする、自己愛と愛だけが残るまでの闘いの記録です。
同じように、心の垢を落としたい、汚れた自分を浄化したい、でもどうしていいかわからない——そんな気持ちを抱えている当事者に、強く響くと思います。
読んで、少しだけ息が楽になる瞬間があるかもしれません。
この作品は、誰のためでもなく、自分のために書いたもの。
同じ道を歩くあなたに、そっと手渡したい一冊です。


