統合失調症当事者として作家活動を続ける作者が、病気の内面をフィクションで描いた中編小説。
現実と妄想の境が曖昧になる恐怖、自己の存在の不確かさを、ミステリー調で追体験させる一冊。
当事者として読むと、自分の症状が言葉になったような共感が得られ、リカバリーのヒントも見つかるはずだ。
主人公・麻野拓真は、ある雨の夜、見知らぬ街で目を覚ます。
見覚えのない服装、財布の札束、使えないクレジットカード…。
記憶が曖昧な中、コンビニの店員や電車の乗客に既視感を覚え、不安が募る。
謎の男Fが現れ、同じ顔を持つ「もう一人の自分」との対峙が始まる。
Fは拓真の「影」か、それとも現実か?
作者は、統合失調症の症状—被害妄想、離人症、させられ体験—を巧みに織り交ぜ、現実の崩壊を描く。
拓真の混乱は、幻聴や妄想が「事実」に感じる当事者の苦しみを象徴。
Fとの同一視は、病気の「自分じゃない自分」感を体現し、読んでいて胸が痛むはず。
作者自身、診断から20年以上幻聴に苦しむ経験を基に、エンターテイメントとして昇華。
シナリオセンターで学んだ脚本技法が、緊張感ある展開を生む。
病気が「脳のバグ」として、健常者向け啓蒙も意図するが、当事者目線では「ぷっちょ」的な柔らかい対処法のヒントに。
家族の不在や孤独、死の不安がリアルで、ピア活動の重要性を思い起こさせる。
WRAPの内省のように、過去の「罪」を振り返る過程が、回復の光を示す。
「やっと会えた」Fとの出会いは、自分との和解か? 逃走の結末は開放感を与え、病気を抱えても「走り続ける」希望を感じさせる。
当事者として、症状の生々しさに共感しつつ、作者の執筆姿勢に勇気をもらえるはず。
幻聴が続く日常で迷う人に、静かに寄り添う一冊。


