今作『生きる』は、統合失調症当事者作家・逢坂純が描いた、家族愛を描いた小説です。
主人公・満が一流商社を辞め、実家に戻ってきたところから物語は始まります。
かつては活力に満ち、首席で大学を卒業し、都会で一人暮らしをしていた満ですが、今はぼんやりとした目でテレビのテスト画面を眺め、家族を困惑させます。
父・幸彦は苛立ちを隠せず「働け!」と怒鳴り、母・和子は心配しながらも優しく寄り添おうとする。
でも満の心は鈍麻し、世界が本物でないような妄想に囚われます。
隣家の夫婦が「殺人」を犯したと思い込み、裸足で雨の夜の街を彷徨ったり、警察に保護されたり……。
そんな満の行動は、周囲から「異常」と映ります。
物語の核心は、満の過去の恋愛と病気の関係。
社内恋愛の相手・万里子との激しい関係は、愛情と憎しみが混ざり合い、彼女の「死ね!」という暴言が、満に「生きている実感」を与えていたのです。
最初は父の厳しさ、母の不安が衝突しますが、徐々に「信じてあげる」ことの難しさと大切さを学んでいきます。
クライマックスでは、満の妄想が事件に絡み、万里子の故郷へ旅に出る展開。
彼女の幸せな今を見て、満は「生きる」決意を新たにします。
庭のオリーブの木が実を付けないように、家族は「枯れ木」状態でしたが、最後には希望の芽が芽吹きます。
この小説は、統合失調症という病気を「怖いもの」として描くのではなく、当事者の内面の苦しみ、家族の葛藤、そして「それでも生きる」力を丁寧に描いています。
幻覚や妄想が「本当の現実」に感じられる恐怖、家族が「信じられない」苛立ち……。
これらは、精神疾患を抱える人や家族が実際に直面する現実です。
身近に心の病を抱える人がいたら、どう接すればいいか悩むことがあると思います。
この本は、そんなときに「信じてあげる」ことの意味を教えてくれます。
病気がすべてを壊すわけじゃない。家族の愛が、支えになる瞬間がある。
約200ページのKindle本で、読みやすく、心に残る一冊です。
「生きる」って何だろう?
そんな問いを、静かに投げかけてくれる作品。
ぜひ、手に取ってみてください。あなたの日常が、少し優しくなるはずです。


