統合失調症という脳の病気を20年以上抱えながら作家として発信を続ける著者が、同じ当事者である24歳の青年・SFの生の声を丁寧に聞き取り、対話形式でまとめたノンフィクションです。
誇大妄想と被害妄想が強く絡み合うSFの内面を、センセーショナルに扱わず、静かに、しかし逃げずに描き出しています。
精神疾患を「理解したい」と思っている健常者のあなたに、ぜひ手に取ってほしい一冊です。
SFは、自分の脳に機械が埋め込まれ、24時間監視されていると信じています。
首謀者「IGJ」という人物が、500億円の資産家でインフルエンサーとして彼を観察し、歴史上最も優れた左脳を持つ自分を「実験」している—そんな一貫した妄想の世界を語ります。
中高時代のいじめがきっかけで通信制高校へ、寺での修行中も追われ、幼馴染の助けやIGJの計画に巻き込まれるという話は、まるでSF映画のような壮大さを持ちながら、彼にとっては「現実」として苦しみを伴うものです。
著者は聞き手として、SFの話を否定せず、ただ傾聴します。
SF自身も「理論を突き詰めるのが楽しい」と語り、妄想が彼のアイデンティティの一部になっている複雑さが伝わってきます。
一方で、日常の話になると一変。
映画館のバイトやラーメン屋で働きたい、将棋のYouTube講座をやりたい、家族との関係に悩む…。
等身大の24歳の青年像が垣間見え、妄想とのギャップが胸に刺さります。
家族の関心の薄さ、インフルエンザワクチンへの配慮、将来の暗さ、こうした現実の葛藤も丁寧に描かれ、病気が生活全体を覆う重さが実感できます。
著者は「対話が境界線を引く」可能性を信じ、WRAPの内省のように自己理解を促します。
あとがきでは、出版への「欲望」がIGJの象徴かもと自省し、当事者の苦しみは本人にしか分からないが、人は理解を求める生き物だと語ります。
この本は、統合失調症を「怖い」「変な」病気として遠ざけるのではなく、脳のバグとして、ひとりの人間の苦しみとして描いています。
あなたの周りに、もしかしたら似たような世界を抱えて声に出せない人がいるかもしれません。
その人の内側を、少しだけ覗くきっかけに。
読後、あなたの視線がほんの少し優しくなることを願っています。


