姉のネーミングセンスは抜群である。
僕が妄想などで狼狽えていると、すかさず姉は僕に「それ、T・S・Kだから」と言ってのけた。
統合失調症の、基本的な、症状、略してT・S・Kだ。
パソコンラックの上に乗って僕を見ていたうちの飼い猫ケントが、
僕に向かって「死にてーよぉ」とおっさん声で言った事もあった。
これもT・S・Kだ。
その頃は、何が現実で何が幻惑か分からなかったぐらい病状が悪化していて、
そんな異常な事も現実の事として、認識してしまっていた。
そして、当時は僕も家族も統合失調症の勉強をしていなかったので、
本当に家族全員が疲弊していった。
夢か現実か分からない事が(他人にはそれは妄想だとすぐ分かるような事なのだが)、
日常で度々起こった。
本当に目を開けて起きている日常で統合失調症の異常な事象は起こったのだ。
夏、ノースリーブを着た母の左腕に、大きな入れ墨が見えた事もある。
勿論、母は入れ墨なんて入れていないし、そんな柄の服も持っていない。
僕はその入れ墨を見て、僕の今いる場所は、
実際に僕が居る場所ではなくて、今僕が見ている現実の世界は、誰かが作り出したもので、
僕は本当は、入れ墨だらけの男達に拉致されているのではないかと本気で思っていた。
これも統合失調症の基本的症状の被害妄想所以の事だ。
携帯の文字群がディスプレイ一杯に急スピードで流れた幻覚もあった。
自分にはそれが実際に起こった現実だった。
そして、そんな症状は僕の体調が良くなり再び仕事を始めると、
すぐにその幻聴、幻覚、妄想が起こった。
逢坂 純著『僕の頭の中のぷっちょ。』より。

