うちの父は、定年してもう何年も経つのですが、最近になって父の姿というのが見えてきたような気がします。
市のグランドゴルフで優勝していたり、趣味の写真で賞を貰っていたり、毎晩、ベッドに足を掛けて、腕立て伏せを20回やっていたり、意外とスピッツのアルバムを聴いていたり・・・。
以前は僕の事を鼻にも掛けないような態度だったけれど、最近は統合失調症の僕の事を徐々に理解してくれて、作業所の送り迎えの車の中では、案外仲が良かったり・・。
そんな父はもう73歳になる。
『意外と知らない父の姿』
「ねえ、お兄ちゃん、お父さんが青年海外協力隊に行きたかったの、知ってる?」
「ああ、知ってるさ。父さんの夢だったからな」
恭子とその兄、亮介はこじゃれた喫茶店の奥のテーブルで、向かい合って座っていた。
店内には、コーヒー豆を炒ったコーヒーの香りが充満していた。
恭子は、テーブルのコーヒーカップを手に取り、一口、コーヒーを口に含んだ。
それは、その店のマスターが、お客一人一人に合ったものを選んだコーヒーカップだった。
「このコーヒーカップ、一人一人、違うのよ」
亮介もコーヒーカップを手に取った。
「あ、本当だ。素敵なカップだね」
「お父さんもこの店の常連だったのよ」
「そうなんだ」
二人は黙って、父の事を想った。
「父さん、死んでから、俺の中で段々大きな存在になってくる」
「そうなんだ・・」
「俺が高校の時は、父さんに反発ばかりしてた。父さんを意味も無く軽蔑してた時もあった」
「そうだね、お兄ちゃん、高校の時、物凄い反抗期だったもんね」
「でも、父さんは黙って俺を見守ってくれていた。今思えば俺には出来ない事だよ」
店の外では、小雨が降っていて、窓ガラスを雨粒が打ち付けていた。
「親になって初めて分かる・・か」
「ああ、死んでからの方が父さん存在が俺の中で生きているんだ」
「父さんは、私達の中で今でも生きてるのよ」
「ああ、そうだな」
そう言うと、二人はコーヒーを飲んだ。

