僕の通っている作業所では、休日の駅の清掃には、往復の交通費が全額出るようです。
清掃が終われば、後は個人の自由でそれからカラオケに行こうと、
ランチを食べようと自由だと思っていました。
だけども、そう思っていてもそれを職員さんに口に出して言うのは、間違いのようです。
往復の交通費が出ているという事は、仕事をしに駅まで来ているのだから、
清掃がおわったらそのまま家に帰宅するのが筋だという考え方です。
もし清掃後、遊びに行きたいなら、
職員さんにも、それは黙っておくのが最低限のビジネスマナーの一つなのかも知れません。
ビジネスマナーの教本には、決してそんな事は書いてはいませんけれどもね。
友人は「要らん事は黙っておく」という名言を僕に教えてくれました。
馬鹿正直な僕には、ちょっと難しい課題かも知れませんが。
『二人だけの秘密』
もう退社時間なのに―――。
課長は、僕達の帰りを遅らせて、社員達を目の前にいつもの説教をしていた。
真剣に課長の話を聞く者、俯いて携帯をいじる者、時計を見つめて課長の言う事に無関心な者、様々だ。
僕は同期入社の彼女とパソコンのメールで、その間メッセージを送り合っていた。
―まだ終わらないのかな?
僕がメッセージを送ると、向いの席の彼女から返信が届く。
友だちでも無く、恋人でも無く、彼女は同期社員というだけ。
一緒にランチをするわけでもなく、どこかに遊びに行くわけでもなく、只、会社のパソコンでメッセージを送り合っている仲。
彼女は僕の事をどう思っているのだろう。
僕はそれを彼女に言い出せずにいる。
彼女も僕と同じ気持ちだろうか?それだったら嬉しい。
「お、もうこんな時間か。それじゃ、今日はこれで終わりにしよう」
(やっと終わったー)。
「お前らも言ってくれよ。俺だって暇なわけじゃないんだからさ」
(お前が言うなーー!)。
僕は脱力してパソコンで彼女にメッセージを送った。
――疲れたね。
語尾にヘトヘトになった顔文字を入れた。
しばらく待つと、パソコンに彼女からメールが入った。
――同じく。
同じだ―――。
彼女と一瞬、繋がれた気持ちになった。
彼女もヘトヘトになった顔文字を入れていた。
終業後、会社を出て行った彼女を追い掛けて、僕は言った。
「今からご飯食べに行かない?」
僕は笑って言った。
「そう、正徳円のスタミナラーメン食べに行こう!」
パソコンでの彼女とのやり取りのお陰で、僕は彼女の好き嫌いをいつの間にか、全部知っていた。

