幼い頃の記憶というのは、全く不確かなものだと思います。
僕の父親は三交代制の工場で働いていたため、
僕は父に遊んでもらった記憶があまりないと思っていたのですが、
かすかに思い出した記憶がありました。
それは家族でドライブをした時の記憶でした。
車のカセットには、洋楽のモンキーズが掛かっており、
僕と姉は後部座席に座り、車の窓は全開に開かれており、
後部座席の座席シートカバーには風が中を吹き抜けて、盛り上がり、まるで雲の上にいるようでした。
大切な記憶程、日々の生活に追われて失くしてしまいがちなのかなと少し、
自分を顧みてしまいました。
『繋いだ温かな手』
私は彼の後を付いて歩いた。
彼の足は速く、付いていくのだけで精一杯だ。
彼は振り向かずに、ドンドン歩いて行く。
その時、私の脳裏にはあの時の映像がフラッシュバックのように浮かんだ。
父が私を置いて、さっさと前を歩き去って行った時の父の背中。
あの時、私が父の手を放さなければ、私はあの時、家族を失わなかったのに。
私は父とあの時から、逢っていない。
父の記憶は、悲しい事ばかりが思い出される。
――嫌!嫌や!もう悲しい思いは、二度としとうない!――
私は彼を追って走った。
彼に追いついた私は、彼の手を後ろから追い掛け、力強く握った。
彼の手は温かかった。
彼は私の行動に驚いたのか、立ち止まって、私の方を振り返った。
彼は私を見て、笑顔になった。
彼の優しい笑顔。
「ごめん、足速かった?」
「ううん、大丈夫」
彼は私の手を握り直して、ギュッと掌を掴んだ。
その握力はあたかも「もう離さないからね」と言っているようだった。
幸せってこんなものなのだろうかと、その時、
私は心で少し思った。

