彼は無言だった。僕も無言でいたかった。けれど氷山から切り取られたような氷一杯のグラスに入ったコークハイは、僕をお喋りにさせた。彼はビール一杯では何ともないような酒好き、酒豪だ。彼は僕の次から次へと止めどない喋りに付き合ってくれていた。彼が彼女を呼ぼうと言った。彼女はとても親切な人。とても愛すべき人。とてもユニークな人。どんな称賛の言葉も彼女には敵わない。
僕の言葉は偽物だ。彼の言葉こそ、生きていく芯を突いている。だけど、僕は少林寺の修行僧のように鍛錬に鍛錬を重ねて、本物の男になってやるんだ。
そして何人も僕にひれ伏すそんな存在になってやるんだ。だけども、例えばそんな僕になったとして、誰が僕の事を振り向いてくれようか。誰が僕に微笑んでくれようか。
僕はそこで立ち止まる。今までの僕の全行動を記録した文集を一枚一枚、千切り取るように破り捨てるのだ。
こんなものは僕じゃないと思った。水族館にパンダがいるぐらい不自然だ。
けど不自然って結構、いい感じかも知れないと、誰かが言っているのを聞いた。
端正な顔立ちの男は、3カ月もいれば飽きてくる。女性の場合は別物だが。
女性のちょっとした言い回し、仕草、ふと見せる真剣な眼差しを僕は可愛いと思う。
それは男性である僕には無い物ばかりだからだ。
それを想うと僕は彼女をモノにしたいという欲求が生まれる。
それは決して間違いじゃない。間違いじゃないけど、この常識社会では表立って言えない秘め事なのかも知れない。
僕はその秘め事を一人静かに楽しむ。
そこには他人は存在しない。
他人には迷惑なんて掛けられないから。
だから僕は今日も一人、枕を抱えながら涙で枕を濡らして眠る。眠る。

