その本屋には、僕の知らない素敵な本ばかりが置いてあった。入口のドアのベル、一瞬今を忘れてしまうような古ぼけた内装。決して大型書店では探せないようなセレクション。奥の席には、丸眼鏡を掛けてメイドと間違えるような白と濃紺のフリルの付いたゴスロリ系の服。彼女は三島由紀夫の金閣寺を、椅子に揺られながら読んでいる。
僕はズラリと並べられている、その店長の女性が選んだであろう本たちを店の奥に歩を進めながら、本を発掘するように魅入っている。
僕はその本棚から一冊の本を見つけた。
その本の背表紙には「源氏物語―あなたの場合ー」と書いてあった。
僕はその本を手に取った。
本は、源氏物語と書かれてあるのに、舞台は現代だった。
現代の恋物語だった。
これは僕の本なのだろうか?あなたの場合、と書かれてあるのは、やっぱり僕の物語なのだろうか。
僕は本の中では絶世の美女たちと日ごと夜ごとに恋をするプレイボーイと書かれてあった。
本当に僕のように、本の中には僕の事細かな容姿恋心が描かれていた。
戻れなくなってしまう。
そう思い、僕は本を閉じた。そうしたら僕はもう平凡な何の特徴も無い只の男に戻っているのだ。古ぼけた本屋、僕になんか気にも留める事も無い店の奥に座るロリータファッションの女店主。
僕は何も買わずに本屋を出た。
外は晴れていた。会社をサボったかいがあったと思うすてきな本屋と出会った。
また明日も寄っていこう。
明日の予定がまた出来た。

