悔しさがみなぎった。私にはあんな事、決して出来なかったからだ。彼女の絵筆は、滑らかに、それでいて豪快にキャンバスに書きなぐった。それでいて繊細なタッチ。彼女ならではの、作品だと思えた。この感情は嫉妬?自分が且つて好きだった恋人を、忘れかけた頃に目の前に彼が現れたような感覚。
「悔しい」
私には持ち合わせていない複数の絵具で作った深い赤の色。誰もがうらやむ深い赤。
絵の中の男は、その深い赤をひび割れた唇に細く細く引いていた。それはまるで芳醇なルージュのよう。私には思いもよらない凄まじい彼女の才能に私は只々、感嘆するばかり。
彼女の才能は本物だ。
私は彼女にいつ迄経っても追いつけずにいるのだ。悔しい悔しい悔しい。
そんな思いが全身を駆け巡る。
どうしたらそんな絵が描けようか。
私はどんな努力をしたら、あんな絵が描けるのか。
いいや。
彼女は才能で絵を描くのではない。
彼女の絵には至る所に、彼女のセンスを醸し出そうとする細かな努力が見える。
彼女と私は別物なのだ。
全く違うものを求めているのだ。
それなのに。
私は彼女に嫉妬している。
展覧会に行って見た絵は、私を感動させた。
だけれども、嫉妬など抱かなかった。それはその絵が雲の上に浮かぶ私には手の届かない宝石だったからだ。
彼女の持つ物は、私の持つ物と違う。
そう念じていても、私は彼女に嫉妬している。
そう、私は女性。彼女の恋人。

