その瞬間、ぼくの顔は引きつっていた。こんな時こそ笑わなくちゃ。そう思うと尚更顔が硬直していくのがわかる。今日は娘のダンス大会決勝戦。必ず行くと約束を交わした。これが初めての約束じゃない。娘を何度泣かした事か。決して破ろうと思って破った約束ではない。今度が最後のチャンスだ。娘から見限られたくない。
ぼくはプログラムのパンフレットを見た。彼女の出番は最後から二番目。娘の晴れ姿を今度こそ約束通り見てみたい。
親バカかも知れないけれど、彼女の努力は妻からいつも聞いている。それだけ彼女は今日のこの日の為に、ずっと練習をしてきたのだ。
電車にすれば良かった。道路は渋滞していた。
会場まではあと、5キロも無い。車をそこいらに停めて、車を捨てて走っていこうか。と言ってもこの車は社用車。違反切符を切られたら、それこそ娘はぼくと話しもしてくれなくなるだろう。
僕は進まぬ交通渋滞に苛々としていた。握ったハンドルは手汗で湿っていた。
娘とは、もう何年も口を利いていなかった。この大会の事だって、妻から聞いた事だった。
娘の驚く顔と喜ぶ顔が見たかった。もう嘘つきだなんて言われたくない。でも、僕が大会で娘を応援したとしても、彼女は少しも嬉しい顔などしてはくれないのだろうか。彼女の笑顔をこの何年か見た事が無い。会話も無かった。渋滞の車の中で、色々考えてもしょうがない。
ドラマや映画のように、車から降りて走りたい気持ちを抑え、僕の苛々は止まらない。娘の出番はもうそこまで迫っている。大切な時に一番傍にいなきゃいけないのは、分っている。分かっているのに、分っているのに、現実の僕はこんなにもみっともない事になっている。妻が僕に見切りをつけて家を出て行ったのも頷ける。だけど、まだ遅くない。父親の資格試験、何が何でも合格しなくては。

